小林秀雄のエッセイの中に、「人形」というのがあります。(「考えるヒント」に収録) 食堂車で晩飯を食べようとしたところ、60代以上のご夫婦と相席になります。 その奥さんは小脇に人形を抱えていて、二人分の食べ物をまず人形に与えてから自分の口へと運びます。 相席として後から来た20歳くらいの大学生の女性も、それを察してかそのことには触れません。 その人形は、戦争で亡くした息子だと思いこんでいるのか、そんな想像を小林秀雄はします。 「異様な会食は、極く当り前に、静かに、敢て言えば、和やかに終わったのだが、もし、誰かが、人形について余計な発言でもしたら、どうなったであろうか。私はそんな事を思った」 と結んでいます。 ほんの短いエッセイですが、色んなことを示唆してくれる文章です。 (「小林秀雄 人形」で検索すると見ることができると思います) これには後日談があり、白洲正子の「同行三人」というエッセイの中に描かれてあります。 ある時、この「人形」について小林秀雄に聞いたところ、発表の後、投書が送られてきて、夫は弁護士をやめてからそのご夫人と知り合い、その人形をあてがったということだそうです。 投書の中には、その人は悪い人だというものもあり、小林秀雄は「人間とは、むつかしいものだ」と語ったといいます。 悪い人というのはどういう意味か?を問いただそうと白洲正子は思ったが、そのまま聞かずじまいだそうです。
by masagorotabi
| 2011-09-06 21:00
| 落描き
|
Comments(0)
|
もうひとつのブログ
カテゴリ
最新のコメント
ブログジャンル
|
ファン申請 |
||